このページでは,当研究室で進めているプロジェクトである「遠隔採血」について紹介します。
遠隔採血とは,通院している病院とは別の場所(たとえば自宅や職場の近くの診療所など)で採血を済ませておくことで,その血液検査の結果が通院している病院に送られ,次の診療の際にその結果を使って診療を受けられるという仕組みです。
遠隔採血を受けることで,病院に行った際の「採血から診察までの待ち時間」(血液検査を行っている時間)がなくなります。あるいは,その病院の中で検査を実施していない場合には採血と診療の2回にわたって病院に行く必要がありますが,それが1回で済ませられることになります。
このように,遠隔採血によって通院する患者の選択肢が増え,利便性が向上します。
遠隔採血を受ける流れは,たとえば次のようになります。
3ヶ月に1回の定期的な通院をしているとします。来週の水曜日が次の診察日であった場合,たとえば今週の金曜日に昼休みに職場の近くで採血を受けたり,仕事からの帰りに駅の近くで採血を受けたり,あるいは土日に家の近くで採血を受けたりします。そうしておくと(つまり遠隔採血を受けておくと),水曜日の診察の際には,予約時間に病院に行けばすぐに診察を受けることができます。
遠隔採血のもう1つの大きなメリットは,オンライン診療で血液検査の結果が利用できることです。上に書いた流れの場合,最後の診察はオンライン診療にすることも可能になります。こうすると,仕事を10分だけ抜けさせてもらい,職場の会議室などでオンライン診療を受けることができるかもしれません。採血と受診の時間を短くすることができ,仕事が忙しい患者の利便性が大きく上がります。
あるいは,中山間地域に住んでいて,通院している病院が遠くにある場合には,通院にかかる時間が長くなってしまいます。病院への往復や診察の待ち時間を含めると,1日がかりとなっている場合もあります。こうした場合にも,遠隔採血を利用することで,通院にかかる時間を短くすることができます。
中山間地域の場合には採血を受けられる場所が限られますが,採血ができる場所を増やしたり,定期的に移動車両が来て採血をしてくれたり,といったことができれば,そうした不便も解消されるものと期待できます。
遠隔採血は現在は存在しない仕組みであり,日本で遠隔採血を受けることはできません。
この仕組みを実現するためには,法律(規制・制度),診療報酬,情報(検査依頼,検査結果など)の流通,物(採血資材,採血管など)の流通,検査結果の一貫性・整合性など,解決すべき大きな課題がいくつかあります。
たとえば,現在は通院している病院から他の医療機関(診療所など)に検査依頼を送るという仕組みはありません。また,移動車両で献血はできますが,臨床検査のための採血はできません。血液検査の結果を利用したオンライン診療を受けることもできません。
これらの課題がすべて解決することで,ようやく遠隔採血を受けることができるようになります。
遠隔採血は長い間,1人(森田)の妄想でしかありませんでした。いつかこうした診療が受けられるようになるだろうとずっと思っていましたが,一向にその気配はありません。
そこで自分でやるしかないと考え,遠隔採血の実現に向け,令和5年度(2023年度)の内閣府「先端的サービスの開発・構築や先端的サービス実装のためのデータ連携等に関する調査事業」に遠隔採血を提案し,採択をして頂いたことで,令和5年(2023年)7月にプロジェクトが動き出しました(国家戦略特区ワーキンググループヒアリング資料,2023年9月7日)。
現在,複数の事業者と協働し,また多くの方々のご協力を得て,遠隔採血の実現に向けて多方面から課題解決に向けてに取り組んでいます。ご興味のある方は,ぜひご連絡をください。
遠隔採血の実現に向け,ぜひご期待頂くと共に,ご支援頂けますと幸いです。
遠隔採血は,診療と臨床検査を分離する制度と考えることができます。診療の前に採血を受けるという点で,時間的に診療と採血(および臨床検査)が分離されていると言えます。また,診療を受ける場所とは別の場所で採血を受けるという点で,空間的に診療と採血(および臨床検査)が分離されていると言えます。
日本では,診療を受ける場所と薬を受け取る場所は異なることが多いです。つまり,病院の診察後に処方箋を持って調剤薬局に行き,そこで薬を受け取ります。臨床検査においても,同様の仕組みを考えることもできます。この場合には薬とは逆に,病院の診察前にどこかで臨床検査を受けておき,その検査結果を持って病院に行くという流れです。
診療と臨床検査が分離されている国(つまり病院とは別に臨床検査センターが存在する国)もありますが,私たちは日本でそれを実現することを目指しているわけではありません。診療所などの既存の診療施設あるいはそれに相当する場所を利用し,私たちの診療の利便性を向上すること,人口減少において中山間地域などの医療体制を維持すること,共働き世帯の子育てやダブル介護という状況においても必要な診療に行けるようにすることなどを目指しています。
「遠隔採血」という名称は当研究室の教員(森田)が付けたものですが,「院外採血」と言い換えることもできます。
また,この仕組みは血液検査だけでなく,尿検査でも同様のことができます。さらには,生理検査(心電図,超音波検査など)でも同様のことを行うことができます。こうしたことを踏まえると,「遠隔事前検査」という名称がより適しているのかもしれません。
(作成日:2022-08-26,最終更新日:2024-06-04)