私たちの研究室では,教育のために抄読会を定期的に行い,関連分野の文献を読んでいます。
これまでに対象とした文献およびその内容を記録として公開させて頂きます。なお,ここに記載している文献の内容は,抄読会の参加者がその場で読み取った内容から作成しています。そのため,文献の内容を正確に記述できているとは限りませんので,その点にご留意ください。
How Reliable Are Ultra-Short-Term HRV Measurements during Cognitively Demanding Tasks? André Bernardes, Ricardo Couceiro, Júlio Medeiros, Jorge Henriques, César Teixeira, Marco Simões, João Durães, Raul Barbosa, Henrique Madeira, Paulo Carvalho. Sensors 2022;22:6528.
長期的なゴール:超短時間に心拍変動(HRV)解析を評価できるようにする。
本研究の背景:HRVは自律神経に関する非侵襲的なバイオマーカーであり,HRVは健康問題の診断や予後予測や認知負荷の測定に使いうる。従来,長時間(24時間)あるいは安静時かつ短時間(5分間)の測定でのHRV解析は広く受け入れられている。しかし,現実の環境ではこれほど長時間の安定したデータは取ることができない。そこで近年では,1分間未満の超短時間でのHRV解析が必要とされている。本研究では,ソフトウェア開発におけるバグ検出作業において,HRV解析を使用することを想定している。こうした作業において,リアルタイムにストレスの変化を追跡するには,HRV解析は超短時間の測定で実施できる必要がある。
本研究の目的:認知的要求の厳しいタスク中の超短時間HRV解析はどの程度信頼できるかを実生活に近い環境で明らかにする。
Prompt Optimization with Human Feedback. Xiaoqiang Lin, Zhongxiang Dai, Arun Verma, See-Kiong Ng Patrick Jaillet, Bryan Kian Hsiang Low. arXiv 2024;2405.17346v1.
長期的なゴール:大規模言語モデル(LLM)のプロンプトを現実的な労力で最適化する方法論を確立する。
本研究の背景:LLMの出力はプロンプトに大きく依存するが,最適なプロンプトを発見するのは通常は難しい。このため,プロンプトの最適化に関する研究が数多く行われている。先行研究には,プロンプトを評価するために数値スコアを使う研究があるが,数値スコアは実行不可能であったり,信頼性に欠けたりする。また,ブラックボックス化されたLLMでは,評価するための数値スコアへのアクセスができない。また,数値スコアはプロンプトを正確に評価できない可能性がある。一方,評価のためのデータセットを必要とする研究もある。あるいは,スコアラーLLMによってプロンプトを評価している研究もあるが,そこで得られるスコアは現実とは乖離している。そこで,人間のpreference(好み,二者択一)よるフィードバックによりプロンプトを最適化することができるか?という疑問が湧く。好みによるフィードバックの方が,スコアを求めることよりも人間ははるかに積極的で信頼できることが多い。
本研究の目的:人間の好みによるフィードバックだけでプロンプトを最適化できるかを明らかにする。
Fine-tuning a local LLaMA-3 large language model for automated privacy-preserving physician letter generation in radiation oncology. Yihao Hou, Christoph Bert, Ahmed Gomaa, Godehard Lahmer, Daniel Hfler, Thomas Weissmann, Raphaela Voigt, Philipp Schubert, Charlotte Schmitter, Alina Depardon, Sabine Semrau, Andreas MaierAndreas Maier, Rainer Fietkau, Yixing Huang, Florian Putz. Frontiers in Artificial Intelligence 2025;7:1493716.
長期的なゴール:大規模言語モデル(LLM)によってヘルスケア分野の自動化を進める。
本研究の背景:LLMはファインチューニングなどによって医療分野を含む多くの分野で革新的な影響をもたらしている。加えて,LLMは放射線腫瘍学の分野を含む一定の医学的知識を含んでいる。今後,欧米では医師が不足するので,業務の効率化がより重要になると予測される。そこで,報告書の記入などの単純作業をLLMを用いて自動化することで,医師がより重要な業務に注力できる。しかしながら,ChatGPTなどのLLMは入力されたデータが学習に使用され,患者のプライバシーに配慮できないため,ローカルLLMを使用する必要がある。ところが,ローカルLLMはChatGPTなどに性能が及ばない。しかし,ファインチューニングされたLLaMA-2の例では,臨床知識アプリケーションでGPT-3.5などのLLMに相当する有望なパフォーマンスを示している。
本研究の目的:放射線腫瘍学分野での医師の所見文書作成をファインチューニングしたローカルLLMによって自動化し,その出力結果を評価する。
A Phase-2 Exploratory Randomized Controlled Trial of INOpulse in Patients with Fibrotic Interstitial Lung Disease Requiring Oxygen. Christopher S. King, Kevin R. Flaherty, Marilyn K. Glassberg, Lisa Lancaster, Ganesh Raghu, Jeffrey J. Swigris, Rahul G. Argula, Rosemarie A. Dudenhofer, Neil A. Ettinger, Jeremy Feldman, Shilpa Johri, Peter Fernandes, Ed Parsley, Parag S. Shah, Steven D. Nathan. AnnalsATS 2022;19(4):594-602.
長期的なゴール:繊維性間質性肺疾患(fILD)の有効な治療法を開発し,患者を完治もしくはQOLの向上をさせる。
本研究の背景:fILDの患者は機能の障害,活動量の低下,労作時呼吸困難を起こし,酸素の補給が必要になる。また,fILDの1/3〜1/2で肺高血圧症(PH)が発症する。現在の治療法は主に肺機能の低下を阻止または遅延させることに重点を置いており,QOLを向上させる薬物はまだない。吸入一酸化窒素(iNO)は安静時および運動誘発性のPHを緩和する可能性がある。医療機器INOpulseは,患者の肺活量に基づく量のiNOを,鼻カニューレを介してパルス状で連続投与する。投与量30 µg/kg IBW/hのiNO(iNO30)を用いた最初のプラセボ対照試験で,酸素補給を受けているfILDの患者においてiNO30は忍容性が高く,actigraphyで評価した中等度〜高強度の身体活動量(MVPA)の持続に有効であることが示された。
本研究の目的:第II相試験として,高用量のiNOの安全性と有効性を確立し最適な投与量を確立する。そこで決定された投与量での効果が長期間持続するか見極める。MVPAを含む複数のエンドポイントを評価し,第III相試験の設計に役立つ最適なエンドポイントを特定する。
Analysis of Machine Learning Algorithm for Sleep Apnea Detection Based on Heart Rate Variability. Muhammad Zakariyah, Umar Zaky. JUITA: Jurnal Informatika 2022;10(2):173-181.
長期的なゴール:自覚症状がない睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者の診断および重症化防止のために,日常的なモニタリングを簡便かつ安価に実施できるようにする。
本研究の背景:睡眠時無呼吸(SA)はいろいろな疾患につながるが,SAは自覚症状がないため,しばしば見過ごされ,治療につながっていない。また,SAは未治療だと重症化する可能性がある。PSGがSAの診断に用いられるが,主に2つの欠点(時間がかかる,高価)がある。また,PSGは重症化を予測することはできないので,日常的にモニタリングするための他の方法が必要である。ここで,睡眠中の呼吸障害は自律神経に影響するため,この検出には心拍変動(HRV)を用いることができる。HRVはスマートウォッチで計測できるので,HRVを用いたSAの検出はPSGの代替になることが期待される。本研究では,SAはHRVを特徴量として機械学習によって検出できると仮定した。このとき,SAの早期診断に関連する特徴量を客観的な方法で探索することは極めて重要である。
本研究の目的:SAの検出に用いることのできるHRVに基づいた特徴量を見つける。SAの検出における複数の機械学習アルゴリズムの性能を比較する。
Professional and patient attitudes to using mobile phone technology to monitor asthma: questionnaire survey. Hilary Pinnocka, Roger Slackb, Claudia Pagliaria, David Pricec, Aziz Sheikh. Primary Care Respiratory Journal 2006;15:237-245.
長期的なゴール:新しい技術(モバイルテクノロジー)を用いて慢性疾患の管理を改善する。
本研究の背景:喘息は,自分で治療が管理できる患者もいれば,自己管理をすることを次の診察まで忘れている患者もいる。新しいテクノロジーの登場は,喘息のモニタリングとケアのあり方を変える可能性がある。たとえば,電子ピークフローメータを携帯電話と連携させる技術は,若い喘息患者のモニタリングと自己管理を高める効果が確認されている。しかし,新しいテクノロジーが広まるかどうかは,潜在的な利益に対する医療従事者や患者の姿勢や,システムの使いやすさ,臨床的な適切さにかかっている。新しいテクノロジーをより広範囲に使用することに対する現在の認識と障壁を同定することが,キャズムを越えてプライマリケアの中に新しいアイデアを取り入れるために必要である。
本研究の目的:喘息をモニタリングするためにモバイルテクノロジーを使用することに対する患者と医療従事者の態度を明らかにする。モバイルテクノロジーが喘息のモニタリングに与える潜在的な影響を評価する。
Exploring the association between sleep quality and heart rate variability among female nurses. Hsiu-Chin Hsu, Hsiu-Fang Lee, Mei-Hsiang Lin. International Journal of Environmental Research and Public Health 2021;18:5551.
長期的なゴール:看護師の睡眠の質を向上させることにより,看護ケアを改善する。
本研究の背景:看護師は夜勤があるので,循環器系の自律神経調節の変化が鈍く,心血管疾患リスクが高い。睡眠と自律神経活動の関係は相互依存であり,自律神経を評価するためには心拍変動(HRV)が有用である。近年,交代勤務と睡眠障害がHRVと自律神経に与える影響について活発に研究されている。また,社会的背景が異なるとHRVの大きさも異なる。さらに,女性看護師は男性看護師と比べて睡眠に問題を抱えやすい。これらのことから,管理職は女性看護師の睡眠の質とQOLを向上させるべきだが,しかしHRVが睡眠の質の指標になるかは明らかではない。
本研究の目的:女性看護師における睡眠の質と心拍変動(HRV)の関係を調べる。
Sleep deprivation deteriorates heart rate variability and photoplethysmography. Nicolas Bourdillon, Fanny Jeanneret, Masih Nilchian, Patrick Albertoni, Pascal Ha, Grégoire P. Millet. Frontiers in Neuroscience 2021;15:642548.
長期的なゴール:部分的な睡眠不足による心肺機能への影響を評価するために非侵襲的に測定できるようにする。
本研究の背景:部分的な睡眠不足は騒音や光などの環境によって引き起こされるものであり,全体的な睡眠不足よりも一般的である。交感神経と副交感神経のバランスを評価する最も簡単な非侵襲的な方法は心拍変動解析(HRV)であるが,これを補完する方法として圧受容体反射感受性(BRS)と光電容積脈波(PPG)が使用される。しかし,BRSやPPGは全体的な睡眠不足でのみ研究されている。
本研究の目的:部分的な睡眠不足による心肺機能への影響をHRV,BRS,PPGで評価できるか明らかにする。
Quantifying postoperative mobilisation following oesophagectomy. J.M. Hussey, T. Yang, J. Dowds, L. O’Connor, J.V. Reynolds, E.M. Guinan. Physiotherapy 2019;105:126-133.
長期的なゴール:食道切除術などの複雑な医療行為後の早期離床を支援する方法を確立する。
本研究の背景:食道切除術は食道癌や食道胃接合部癌にとって唯一の治療法であるが,高い術後リスクを伴う。回復を早め合併症を減らすために,術後は早期に運動を開始することが推奨されているが,しかし運動の目標は患者によって様々であり,臨床的判断が必要とされることが多い。また,運動を制限する因子は様々であるため,それらを特定し,戦略を立てることが早期に運動を開始する鍵になる。
本研究の目的:食道切除後の離床を定量化する,離床を妨げる要因を明らかにする。
How nurses support family caregivers in the complex context of end-of-life home care: a qualitative study. Yvonne N. Becqué, Judith A. C. Rietjens, Agnes van der Heide, Erica Witkamp. BMC Palliative Care 2021;20:162.
長期的なゴール:終末期に家族介護者などの支援を受け,私たちが家でよりよい死を迎えられるようにする。
本研究の背景:訪問看護師は,患者や家族介護者が受ける終末期の在宅ケアの量を決定する役割を担っている。しかし文献によると,進行した病気の患者に対する在宅ケアについて,家族介護者に焦点を当てられたものはない。
本研究の目的:訪問看護師による家族介護者への支援について,どのような要因が影響を与えているかを探索する。
The association between heart rate variability, reaction time, and indicators of workplace fatigue in wildland firefighters. Andrew T. Jeklin, Andrew S. Perrotta, Hugh W. Davies, Shannon S. D. Bredin, Dion A. Paul, Darren E. R. Warburton. International Archives of Occupational and Environmental Health 2021;94:823–831.
長期的なゴール:シフト制労働者の健康状態を改善する。
本研究の背景:心拍変動(HRV)は心臓の自律神経系を非侵襲的に評価することができ,心臓の健康とウェルビーイングを評価する指標になる。たとえば,ホメオスタシスのバランスが乱れた後の心機能の回復に自律神経系が及ぼす影響を調べることで,山火事専門の消防士(wildland firefighters)の日々の回復と全体的な健康状態を評価する有効な方法が見つかるかもしれない。しかし,シフト制勤務・制限された睡眠・疲労とHRVとの関係について,特定の職種と紐付けた研究は少ない。
本研究の目的:HRVがシフト勤務における疲労・認知能力・総睡眠時間に対して有益な情報を提供できるか明らかにする。
Wake Up America: national survey of patients’ and physicians’ views and attitudes on insomnia care. Ruth M. Benca, Suzanne M. Bertisch, Ajay Ahuja, Robin Mandelbaum, Andrew D. Krystal. Journal of Clinical Medicine 2023;12:2498.
長期的なゴール:不眠症ケアをよりよいものとすることで,アメリカの国全体の健康とウェルネスを改善する。
本研究の背景:患者と医師の両方が睡眠が重要と考えているが,次のような事情により診察時には睡眠の健康が適切に考慮されていない可能性がある:1)医療従事者は時間に追われている,2)医療従事者は睡眠疾患の十分な教育を受けていない,3)睡眠の専門医の数が限られている。これまでの研究では,一般住民を対象とした睡眠に対する認識と行動に焦点が当てられており,医療従事者に対する調査や睡眠の質に関する研究はなく,また患者と医療従事者の両方の視点から不眠症とケアについて検討した広範で定量的な研究は行われていない。
本研究の目的:患者と医療従事者の両方の視点から不眠症の認識を明らかにし,それらの間の潜在的な差を理解する。
The prognostic impact of preoperative mean corpuscular volume in colorectal cancer. Kimihiko Nakamura, Ryo Seishima, Shimpei Matsui, Kohei Shigeta, Koji Okabayashi, Yuko Kitagawa. Japanese Journal of Clinical Oncology 2022;52(6):562-570.
長期的なゴール:大腸がんの治療戦術を立てるために,予後予測の精度を向上する。
本研究の背景:一般に,術前には血液検査が行われている。術前の患者の炎症や栄養状態が予後因子になることが明らかになっているため,その評価指標が計算されている。評価指標には,好中球/リンパ球比(NLR),血小板/リンパ球比(PLR),リンパ球/単球比(LMR),Glasgow予後予測スコア,予後推定栄養指数(PNI)があり,大腸がんを含むがんの長期予後と関連している。赤血球も指標になり得るが,長期予後の研究はわずかにしかない。赤血球の指標の中で,近年,平均赤血球容積(MCV)の研究が注目されている。術前のMCVと予後の報告の関係がいくつかあるが,しかしコンセンサスがなく,特に大腸がんではコンセンサスが得られていない。
本研究の目的:大腸がん患者の予後因子としての平均赤血球容積(MCV)の有用性を評価する。
Reliability and sensitivity of nocturnal heart rate and heart-rate variability in monitoring individual responses to training load. Olli-Pekka Nuuttila, Santtu Seipäjärvi, Heikki Kyröläinen, and Ari Nummela. International Journal of Sports Physiology and Performance 2022;17:1296-1303.
長期的なゴール:トレーニングの負荷と回復の状況を把握する心拍変動(HRV)などのデジタルバイオマーカーを確立し,スポーツトレーニングを最適化する。
本研究の背景:安静時のHRVは自律神経系の評価に適している。HRVの測定は夜間および起床時が望ましく,理論上は夜間の方が外的要因の影響を受けにくいが,これまでの研究では起床時に測定されてきた。これは,睡眠段階によって自律神経系は影響を受けること,夜間にデータ測定をすることが難しいこと,起床時の方が回復後の状態を測定できることからだと考えられる。最近の技術の進歩によって夜間の測定が可能になったが,しかし夜間の測定の論文は1報もない。上記に加え,トレーニング負荷に対する意味のある変化を評価できることがもう1つの重要なことである。これまで,運動した次の夜と72時間以内の間に測定した心拍およびHRVを用いた研究はされてきた。しかし,夜間の記録を用いた解析では明確な結論が出ておらず,論文によって結論が異なったり,測定の仕方が異なったりしていた。
本研究の目的:標準化された負荷のトレーニング後の夜間のHRとHRVの信頼性を評価する。また,最大負荷のトレーニングに対する夜間のHRとHRVの感度を解析する。
Home-based measurements of nocturnal cardiac parasympathetic activity in athletes during return to sport after sport-related concussion. Anne Carina Delling, Rasmus Jakobsmeyer, Jessica Coenen, Nele Christiansen, Claus Reinsberger. Sensors 2023;23:4190.
長期的なゴール:スポーツ関連脳振盪(sports-related concussion:SRC)からの回復過程を評価できるようにする。
本研究の背景:SRC後には自律神経制御障害が頻繁に観察されるが,睡眠は大脳の再生に最も重要な時間である。
SRCからの回復時の研究には自律神経系の有効な指標となる心拍変動(HRV)解析がよく用いられているが,安静時についての研究はあるものの,睡眠中のHRVについてはまだ行われていない。ここで,睡眠中のHRVを継続的に評価するためには手首センサーは便利である。
本研究の目的:手首センサーを使用して夜間の副交感神経活動を評価し,それと脳震盪に関連する睡眠症状との関係を探る。
Genetic studies of accelerometer-based sleep measures yield new insights into human sleep behaviour. Samuel E. Jones et al. Nature Communications 2019;10:1585.
長期的なゴール:睡眠を制御する生物学的なメカニズムを明らかにする。
本研究の背景:睡眠の特性に影響を与える遺伝子変異を特定することで,睡眠の分子制御および睡眠と慢性疾患の関係への遺伝的な影響を明らかにすることにつながる。これまでの遺伝学的な研究では自己申告の睡眠データが使われてきたが,自己申告によるデータでは限られた睡眠の情報しか用いることができない。さらに,記憶などのバイアスを受ける可能性がある。睡眠を定量化するゴールドスタンダードは終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査である。しかし,PSGでは大規模な前向き研究を実施することは非現実的である。一方,加速度計は低コストに客観的なデータを得られる方法として大規模研究で使われてきた。
本研究の目的:加速度計から得られた睡眠の測定値(8つ)に関連する遺伝子をゲノムワイド関連解析(GWAS)で特定する。
Genome-wide association study identifies genetic loci for self-reported habitual sleep duration supported by accelerometer-derived estimates. Hassan S. Dashti, Samuel E. Jones, Andrew R. Wood et al. Nature Communications 2019;10:1100.
長期的なゴール:睡眠時間を制御する分子機構を明らかにして,慢性疾患の予防や治療につなげる。
本研究の背景:睡眠は長くても短くても慢性疾患や全死因死亡率と関係する。モデル生物において分子的な構成要素が明らかにされつつあるが,ヒトにおいてそれらの分子の役割は明らかになっていない。家系を用いた解析によりBHLHE41が原因遺伝子として同定された。また,これまでのゲノムワイド関連解析(GWAS)研究では,PAX8やVRK2などが同定された。
本研究の目的:自己申告の睡眠時間に対してGWASを行い,既存のGWASを検証する。加速度計による睡眠時間を用いて得られた推定結果への影響を確定し,パスウェイ解析および組織エンリッチメント解析によって関連する生物学的なプロセスおよび疾患の形質との関係を明らかにする。
Multilingual markers of depression in remotely collected speech samples: A preliminary analysis. Nicholas Cummins, Judith Dineley, Pauline Conde, Faith Matcham, Sara Siddi, Femke Lamers, Ewan Carr, Grace Lavelle, Daniel Leightley, Katie M. White, Carolin Oetzmann, Edward L. Campbell, Sara Simblett, Stuart Bruce, Josep Maria Haro, Brenda W.J.H. Penninx, Yatharth Ranjan, Zulqarnain Rashid, Callum Stewart, Amos A. Folarin, Raquel Bailo ́n, Bjo ̈rn W. Schuller, Til Wykes, Srinivasan Vairavan, Richard J.B. Dobsona, Vaibhav A. Narayan, Matthew Hotopf, The RADAR-CNS Consortium. Journal of Affective Disorders 2023;341:128–136.
長期的なゴール:音声を用いてうつ病の変化と再発を予測するデジタルバイオマーカーを確立する。
本研究の背景:うつ病と音声の特定の音響的・韻律的特性の変化との間に関係があることを示す研究が増えてきている。しかし,既存の研究はサンプル数が少なく,検出力が不足している可能性がある。
本研究の目的:音声マーカーとうつ病との言語横断的な関連を推定する。
Mean apnea–hypopnea duration (but not apnea–hypopnea index) is associated with worse hypertension in patients with obstructive sleep apnea. Hao Wu, Xiaojun Zhan, Mengneng Zhao, Yongxiang Wei. Medicine 2016;95:48.
長期的なゴール:持続陽圧呼吸療法(CPAP)などの治療対象の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)患者を特定するための無呼吸低呼吸指数(AHI)に代わる指標を同定する。
本研究の背景:過去の小規模(n=9)なOSAS患者を対象とした研究において,無呼吸の持続時間と血圧の関係が示唆された。この関係を示している先行研究はこれしかない。
本研究の目的:平均無呼吸低呼吸持続時間(mean apnea–hypopnea duration:MAD)が高血圧に及ぼす影響を確認する。
Risk of premature atherosclerotic disease in patients with monogenic versus polygenic familial hypercholesterolemia. Mark Trinder, Xuan Li, Maria Liza DeCastro, Luba Cermakova, Singh Sadananda, Linda M. Jackson, Hawmid Azizi, G.B. John Mancini, Gordon A. Francis, Jiri Frohlich, Liam R. Brunham. Journal of American College Cardiology 2019;74(4):512-522.
長期的なゴール:家族性高コレステロール血症(FH)患者を遺伝的にスクリーニングしてリスクを層別化し,集中的な治療が必要な人を特定できるようになる。
本研究の背景:FHは最も数の多い(250人に1人の割合)常染色体優勢遺伝性疾患であり,3つの遺伝子(LDLR,APOB,PCSK9)の病原性バリアントによって引き起こされることが最も多い。しかし,臨床的にFHと診断された患者のうちこれらのバリアントが見られるのは30〜80%である。また,約20%の患者では,複数のバリアントの組み合わせでFHになっていると考えられている。FHの単一遺伝性の病原性バリアントがあると,脳血管障害 (cerebral vascular disorder:CVD)のリスクが約3.5倍上昇する。しかし,多因子遺伝性のFH患者のCVDのリスクはこれまで明らかにされていない。
本研究の目的:単一遺伝子性FHと多因子遺伝性FHの患者は,疾患関連バリアントを有していない患者と比べて早発性のCVDのリスクが高いか評価する。
Wearable movement-tracking data identify Parkinson’s disease years before clinical diagnosis. Ann-Kathrin Schalkamp, Kathryn J. Peall, Neil A. Harrison, Cynthia Sandor. Nature Medicine 2023;29:2048–2056.
長期的なゴール:より早期かつより簡便にパーキンソン病(PD)を診断できるようにする。
本研究の背景:PDと診断された際,特徴的な運動が現れ,黒質のドーパミン作動性ニューロンの500〜70%がすでに変性している。このため,これより前に診断をするバイオマーカーが発見される可能性が残されている。これが成功すると,臨床試験に被験者をリクルートすることが容易になる。予備研究では,加速度と心拍数を用いてPDとそれ以外の人を区別できる可能性が示された。こうした研究はサンプル数が少なかったり診断後のデータのみをつかっていたりといった制限があるが,大きな可能性を秘めている。
本研究の目的:UK Biobankの加速度計データを使い機械学習モデルを構築し,PDの前駆症状を推測できるかを確認する。
Expanding the role of non-physician medical staff in primary care in Germany: protocol for a mixed-methods study exploring the perspectives of physicians in rural practices. Heiner Averbeck, David Litaker, Joachim E Fischer. BMJ Open 2022;12:e064081.
長期的なゴール:地方でのプライマリ・ケアをより効率的に供給することで需要に応えられるようにし,都市部と地方の健康格差を無くす。
本研究の背景:医療への最初のアクセスポイントとなるプライマリ・ケアは人口と慢性疾患の増加に伴い需要が増している。これは農村部で特に顕著である。農村部での医師の不足を補うために,複数の国で非医師の医療従事者(non-physician medical staff:NPMS)を含む多職種チームを構成している。農村部におけるNPMSの拡大には様々な要因が関与していると考えられるが,NPMSへの業務の委譲の意思決定は医師1名が行うことが多いため,彼らの委譲に対する動機と信念が特に重要である。
本研究の目的:NPMSにプライマリ・ケアの業務を委譲するにあたって,医師の心の中の要因(影響する因子,動機,信念)の何が影響しているのかを見極める。
Evaluation of nocturnal vs. morning measures of heart rate indices in young athletes. Christina Mishica, Heikki Kyrolainen, Esa Hynynen, Ari Nummela, Hans-Christer Holmberg, Vesa Linnamo. PLoS ONE 2022;17(1):e0262333.
長期的なゴール:持久力トレーニングと回復の間のバランスを見つけるための科学的なアプローチを確立する。
本研究の背景:持久力トレーニングと回復の関係の研究は数十年にわたり行われている。アスリートの現在の状況を確認するためにはSRTやCMJが使われている。一方,持久力トレーニングからの回復には自律神経系に制御されており,HRとHRVが非侵襲的な指標として有用である。
本研究の目的:若い持久系アスリートの夜間と朝のの心拍数(HR)と心拍変動(HRV)を比較する。また,これらの指標の変化とトレーニング(submaximal running test:SRT,counter-movement jump test:CMJ)のパフォーマンスの変化を比較する。
Structure–function relationships of LDL receptor missense mutations using homology modeling. Sureerut Porntadavity, Nutjaree Jeenduang. The Protein Journal 2019;38:447–462.
長期的なゴール:低比重リポタンパク質受容体(LDLR)の変異と家族性高コレステロール血症(FH)の重症度との関係を明らかにする。
本研究の背景:LDLRは5つのドメインからなる1回膜貫通型のタンパク質である。その変異はFHの原因となり,これまでに1,600以上の変異が見つかっている。しかし,これらの変異がLDLRの立体構造に及ぼす影響,重症・軽症・非病原性の変異と立体構造との関係は明らかではない。
本研究の目的:ホモロジーモデリングを用いて低比重リポタンパク質受容体(LDLR)の変異の構造-機能相関を調べる。
Association of monogenic vs polygenic hypercholesterolemia with risk of atherosclerotic cardiovascular disease. Mark Trinder, Gordon A. Francis, Liam R. Brunham. JAMA Cardiology 2020;5(4):390-399.
長期的なゴール:家族性高コレステロール血症(FH)のアテローム性心血管疾患(CVD)のリスクを正確に評価し,診断と治療につなげる。
本研究の背景:FHは推定される有病率が250人に1人と高いが,実際に診断され治療されている人は多くない。単一遺伝子異常(monogenic)のFHの人は,LDL-Cの値が高いがFH関連バリアントを持っていない人と比べて,CVDのリスクが2〜3.5倍高い。一方,多因子遺伝子異常(polygenic)のFHの人のCVDのリスクは,どのグループと比較するかによって異なっている。また,原因不明の高コレステロール血症の人と比べた場合のpolygenicのFHの人のCVDのリスクは知られていない。
本研究の目的:monogenicとpolygenicのバリアントが高コレステロール血症に伴うCVDのリスクに寄与するか否かを評価し,そのリスクを家族性ではない高コレステロール血症の人のCVDのリスクと比べる。
Validity of the 30-second chair-stand test to assess exercise tolerance and clinical outcomes in patients with esophageal cancer: a retrospective study with reference to 6-minute walk test results. Tomohiro Ikeda, Kazuhiro Noma, Kazuki Okura, Sho Katayama, Yusuke Takahashi, Naoaki Maeda, Shunsuke Tanabe, Akiyuki Wakita, Masanori Hamada, Toshiyoshi Fujiwara, Masuo Senda. Acta Medica Okayama 2023;77(2):193-197.
長期的なゴール:食道がんの術後合併症のリスク因子を術前に評価する簡便な方法を確立する。
本研究の背景:30秒立ち上がりテスト(30-second Chair-Stand Test:CS-30)は,健常者とCOPD患者における運動耐容能の評価方法として妥当性があることが報告されている。アメリカでは頭頸部がん患者の運動耐容能の評価方法として検証されているが,アジア人のがん患者ではまだ評価されていない。
本研究の目的:CS-30が日本人の食道がんの術前の運動耐容能の評価方法として妥当であるか検証する。
Patient-centred measurement of recovery from day-case surgery using wrist worn accelerometers: a pilot and feasibility study. A. M. Ratcliffe, B. Zhai, Y. Guan, D. G. Jackson, South West Anaesthesia Research Matrix (SWARM) and J. R. Sneyd. Anaesthesia 2021;76:785-797.
長期的なゴール:手術後の回復の状況を定量化する。
本研究の背景:手術と麻酔のアウトカムを評価することは周術期管理において最優先事項である。入院中の患者は活動量が低いことは知られているが,退院後の活動については知られていない。現在は患者に電話をかけて確認しているが,手間がかかり,連絡がつかないとならない。患者の容態が急速に変化する場合には,電話ではその時間的な粒度では捉えられない。
本研究の目的:腕時計型の加速度計が,術後の回復の測定に受け入れられ,実施可能で,研究ネットワークに広げられる方法であるかを検証する。オープンソースのアルゴリズムは術後の患者の睡眠を含む活動を表すのに実用的か,quality of recovery-15 scoreの結果と同等であるかを検証する。South West Anaesthesia Research Matrix(SWARM)の能力を示す。
Rapid DNA extraction from dried blood spots on filter paper: potential applications in biobanking. Eun-Hye Choi, Sang Kwang Lee, Chunhwa Ihm, Young-Hak Sohn. Osong Public Health Res Perspect 2014;5(6):351e357.
長期的なゴール:ヒト生体試料(DNA)を使った研究を推進するための保管方法の改良と標準化。
本研究の背景:乾燥血液スポット(DBS)は検体の保管方法として優れている。著者らは濾紙からのDNAの溶出プロトコルの改良版を開発した。
本研究の目的:DBSから溶出したDNAの質,純度,収量をbuffy coatと比較する。
Type III home sleep testing versus pulse oximetry: is the respiratory disturbance index better than the oxygen desaturation index to predict the apnoea-hypopnoea index measured during laboratory polysomnography? Arthur Dawson, Richard T Loving, Robert M Gordon, Susan L Abel, Derek Loewy, Daniel F Kripke, Lawrence E Kline. BMJ Open 2015;5:e007956.
長期的なゴール:睡眠時無呼吸の診断をより便利により安価にできるようにする。
本研究の背景:家庭での睡眠時無呼吸の測定はAASMのガイドラインではtype IIIが推奨されている。しかし,type IIIでは4〜7種類のセンサーが使われる。一方,type IVの機器ではSpO2のみを測定する。最近のACPの論文ではtype IIIの方が診断精度が優れていると述べているが,パルスオキシメトリは入手が容易で家庭で簡単に測定できる。
本研究の目的:パルスオキシメトリのみ(type IV)に由来するODIとマルチチャネル(type III)に由来するRDIによる睡眠時無呼吸の診断精度(AHI)を,病院で行うPSGと比較する。
Variation in value among hospitals performing complex cancer operations. Adrian Diaz, Anghela Z. Paredes, J. Madison Hyer, Timothy M. Pawlik. Surgery 2020;168:106-112.
長期的なゴール:がん手術のコストに対する価値を高める。
本研究の背景:合併症や再入院に関連するコストの研究が多く実施されてきた。複雑ながん(食道がん,膵臓がん)の手術に関連した費用対効果の研究はほとんどされていない。
本研究の目的:食道がんと膵臓がんの手術を行う高付加価値の病院の特徴を明らかにする。
Permutation-based identification of important biomarkers for complex diseases via machine learning models. Xinlei Mi, Baiming Zou, Fei Zou, Jianhua Hu. Nature Communications 2021;2021(12):s41467-021-22756-2.
長期的なゴール:重要なバイオマーカーを正確に特定できるようにする。
本研究の背景:機械学習によってバイオマーカーを特定するアルゴリズムが多く開発されている。しかし,機械学習による予測結果はブラックボックスで解釈が難しい。このためにLIMEやSHAPなどのいくつかの方法が提案されているが,課題もある。
本研究の目的:著者が提案する手法(PermFIT)によって重要なバイオマーカーが特定できることを示す。このために,3つの機械学習の手法(DNN,RF,SVM)および2つのベンチマークデータ(TCGA,HITChip Atras)を用いる。
Method for preservation of DNA stability of liquid-based cytology specimens from a lung adenocarcinoma cell line. Yukiko Matsuo, Kazuya Yamashita, Tsutomu Yoshida, Yukitoshi Satoh. Virchows Archiv 2021;478:507–516.
長期的なゴール:液状化細胞診(LBC)検体を遺伝子解析に使えるようにし,遺伝子解析結果に基づいた治療の選択(がんゲノム医療)をさらに普及させる。
本研究の背景:遺伝子解析結果に基づいて患者に合った治療薬を選択できるようになった。LBC検体は現在は用いられていないが,今後は使われるようになるだろう。しかし,LBC保存液に含まれるホルマリンがDNAを劣化させる可能性があり,具体的にどのような条件であればLBCから次世代シーケンサー(NGS)解析ができるかはエビデンスがない。
本研究の目的:LBC保存液にそのまま入れておいた細胞と比較し,保存液を除いてペレットで保存した場合に,DNAの品質や遺伝子解析結果がよくなるかを検証する。
Machine learning for activity recognition: hip versus wrist data. Stewart G Trost, Yonglei Zheng, Weng-Keen Wong. Physiological Measurement 2014;35:2183–2189.
長期的なゴール:人の動作・行動を正確に測定できるようにする。
本研究の背景:身体活動の正確な測定は,身体活動量と健康アウトカムの関係を明らかにする研究や身体活動量を増加させるための介入に不可欠である。この測定法として加速度計が最も多く使用される方法の1つとなっている。ただし,どこに加速度計を装着するかが課題である。たとえば,装着の継続率やエネルギー消費量の推定精度に影響する。他には活動・行動の識別精度にも影響しうるが,特に若年層においてそのデータが不足している。
本研究の目的:加速度によって行動を識別する精度において,加速度計の装着位置として手首と腰を比較する。
Sudden cardiac arrest and death in United States marathons. David Webner, Kevin M DuPrey, Jonathan A Drezner, Peter Cronholm, William O Roberts. Medicine & Science in Sports & Exercise 2012;44(10):1843-1845.
長期的なゴール:スポーツ中の突然死を防ぐ方法を確立する。
本研究の背景:マラソン人気によりランナーの数が増えている。マラソン中の死亡事故のほとんどは突然の心停止(SCA)であるが,前兆となる症状は見られない。
本研究の目的:マラソンランナーの突然死のリスクを推定し,特徴を見つける。