遠隔採血プロジェクト

遠隔採血


このページでは,当研究室で進めているプロジェクトである「遠隔採血」について紹介します。


■遠隔採血とは

遠隔採血とは,通院している病院とは別の場所(たとえば自宅や職場の近くの診療所など)で採血を済ませておくことで,その血液検査の結果が通院している病院に送られ,次の診療の際にその結果を使って診療を受けられるという仕組みです。

遠隔採血を受けることで,病院に行った際の「採血から診察までの待ち時間」(血液検査を行っている時間)がなくなります。あるいは,その病院の中で検査を実施していない場合には採血と診療の2回にわたって病院に行く必要がありますが,それが1回で済ませられることになります。

このように,遠隔採血によって通院する患者の選択肢が増え,利便性が向上します。


■遠隔採血のある生活

遠隔採血を受ける流れは,たとえば次のようになります。

3ヶ月に1回の定期的な通院をしているとします。来週の水曜日が次の診察日であった場合,たとえば今週の金曜日に昼休みに職場の近くで採血を受けたり,仕事からの帰りに駅の近くで採血を受けたり,あるいは土日に家の近くで採血を受けたりします。そうしておくと(つまり遠隔採血を受けておくと),水曜日の診察の際には,予約時間に病院に行けばすぐに診察を受けることができます。

遠隔採血のもう1つの大きなメリットは,オンライン診療で血液検査の結果が利用できることです。上に書いた流れの場合,最後の診察はオンライン診療にすることも可能になります。こうすると,仕事を10分だけ抜けさせてもらい,職場の会議室などでオンライン診療を受けることができるかもしれません。採血と受診の時間を短くすることができ,仕事が忙しい患者の利便性が大きく上がります。

あるいは,中山間地域に住んでいて,通院している病院が遠くにある場合には,通院にかかる時間が長くなってしまいます。病院への往復や診察の待ち時間を含めると,1日がかりとなっている場合もあります。こうした場合にも,遠隔採血を利用することで,通院にかかる時間を短くすることができます。

中山間地域の場合には採血を受けられる場所が限られますが,採血ができる場所を増やしたり,定期的に移動車両が来て採血をしてくれたり,といったことができれば,そうした不便も解消されるものと期待できます。


■遠隔採血の実現に向けて必要なこと

遠隔採血は現在は存在しない仕組みであり,日本で遠隔採血を受けることはできません。

この仕組みを実現するためには,法律(規制・制度),診療報酬,情報(検査依頼,検査結果など)の流通,物(採血資材,採血管など)の流通,検査結果の一貫性・整合性など,解決すべき大きな課題がいくつかあります。

たとえば,現在は通院している病院から他の医療機関(診療所など)に検査依頼を送るという仕組みはありません。また,移動車両で献血はできますが,臨床検査のための採血はできません。血液検査の結果を利用したオンライン診療を受けることもできません。

これらの課題がすべて解決することで,ようやく遠隔採血を受けることができるようになります。

■現在の状況

遠隔採血は長い間,1人(森田)の妄想でしかありませんでした。いつかこうした診療が受けられるようになるだろうとずっと思っていましたが,一向にその気配はありません。

そこで自分でやるしかないと思い,遠隔採血の実現に向け,令和5年度(2023年度)の内閣府「先端的サービスの開発・構築や先端的サービス実装のためのデータ連携等に関する調査事業」に遠隔採血を提案し,採択をして頂いたことで,令和5年(2023年)7月にプロジェクトが動き出しました(国家戦略特区ワーキンググループヒアリング資料,2023年9月7日)。現在,複数の事業者および多くの方々と共同で,前述した課題に取り組んでいます。

遠隔採血の実現に向け,ぜひご期待頂くと共に,ご支援頂けますと幸いです。

■遠隔採血という名称について

「遠隔採血」という名称は当研究室の教員(森田)が付けたものですが,「院外採血」と言い換えることもできます。

また,この仕組みは血液検査だけでなく,尿検査でも同様のことができます。さらには,生理検査(心電図,超音波検査など)でも同様のことを行うことができます。こうしたことを踏まえると,「遠隔事前検査」という名称がより適しているのかもしれません。

(作成日:2022-08-26,最終更新日:2024-04-05)